再生可能エネルギー業界から、大工仕事へ ― 古民家再生から始まった私のキャリアの転換点

今回は一度家の改装工事のプロセスから離れ、少し私自身のことを書いてみたいと思います。

156年の時間が刻まれた家との出会い

2024年4月に、私たちは初築明治元年、築156年の歴史を持つ古民家を購入しました。

初めて家の中に足を踏み入れた瞬間、空気に宿る時間の重みと、言葉にしがたい存在感に圧倒されたことを今でもよく覚えています。長年の暮らしの中で煤け、黒く艶を帯びた太い梁や柱。漆喰が剥がれ落ち、崩れかけた土壁。歩けば踏み抜いてしまいそうな床。

江戸時代に伐採されたであろう木々を使い建てられ、いくつもの時代を越えてきたこの家は、数々の戦争や社会の大きな変化を静かに見つめてきたはずです。しかし令和の時代に入った今、十数年にわたる空き家期間を経て、まさに朽ちかけた状態にありました。

「この家を、自分の手で蘇らせたい。」

そう強く思いました。

それから私は、この家の改装に膨大な時間と労力を費やすことになりました。増築、解体から構造補強、間取り変更、断熱、床の張り替え、土壁の扱い、建具づくり・・・。家の構造を実際に見て触って確かめ、古民家が持つ知恵や美しさを壊すことなく、現代的な快適さをどう融合させるかを考え、実践し続けました。

そして気づけば、ほぼ全ての工程を自分自身の手で行っていました。

とても大変だった。けれども、その何倍も楽しかった。

家が少しずつ息を吹き返していくような感覚がありました。

「ものづくり」というよりも、家との「対話」に近い体験でした。

わからないことは調べ、必要な道具は買い、実際に手を動かしながら覚えていく。そうした積み重ねの中で、私の中に「木を扱い、空間をつくる」という行為そのものに対する深い喜びが育っていきました。

そしてこの経験が、私の人生を大きく変えることになりました。


古民家再生は未来につながる仕事

古民家を改装する作業とは、頭で考えて体を動かし、手を使って住まい空間を整えていくこと。これは今までの仕事にはなかった充足感でした。

古民家の再生は、単なる建築行為ではなく、「環境と共に生きる未来を選び取る行為」でもあると思います。

すでにある建物を活かし、必要な部分だけを更新する。自然素材と向き合いながら、過剰な消費に頼らず、持続的に暮らしを紡いでいく。その姿勢そのものが、これからの時代に必要な価値観だと感じています。

古民家改修で特に向き合った課題が、冬の寒さでした。

「冬は外より家の中の方が寒い」と言われることもある古民家。その原因は、気密・断熱性能の低さにあります。

私はこの問題を根本的に改善するため、気密・断熱性能を徹底的に見直しました。エネルギー分野で働いていた経験を活かし、断熱材の選定や気密施工、熱の流れの整理を自分で行い、構造上可能な範囲で性能を最大限引き上げました。

さらに、薪ストーブを設置し、その熱を活かす床暖房システムも自作しました。炎のぬくもりが家全体に広がり、足元からじんわり温まる環境が生まれ、築156年の家が現代の快適さを備えた住まいへと変わっていく過程は、とても感慨深いものでした。


エネルギー業界で見えてきた「持続不可能性」

実は、私はカナダ時代から最近に至るまで、再生可能エネルギー分野で会社員として働いていました。

もともと昔から自然が大好きで、仕事として人生の大半の時間を費やすなら、自然環境の改善に貢献するようなことを仕事としてしたい。そんな思いから、この分野に進みました。

カナダでは先住民族の自治体向けに地域エネルギー計画の立案を提案し、建物のエネルギー効率を分析し、地域が主体となる分散型エネルギーの可能性を探るような仕事をしていました。日本に帰国後は、バイオマス発電所の開発業務に携わり、地域の林業事業体や住民と関係性を築きながら、燃料となる木材の調達に深く関わりました。

一方で、制度依存の構造や事業性の不安定さ、環境負荷とのバランスなど、理想と現実の間には多くの矛盾があることも見えてきました。地球に良いはずの産業が、必ずしも持続可能とは言えない。業務はモニター越しの会議や資料作成が中心で、「手でつくる暮らし」からは遠ざかっていく感覚がありました。

それでも、環境への想いが消えたわけではありません。

むしろ、小水力、地熱、屋根上太陽光といった地域に根ざしたエネルギーには、今も大きな可能性を感じています。そして何より、自分の暮らしを自分でつくり、地域で循環させるエネルギーを実践することが、もっとも誠実な形で環境に向き合う方法だと感じるようになりました。


大工仕事への転換

こうして再生可能エネルギーの世界で積み重ねた経験や葛藤を通して、私は次第に、環境に向き合う方法は必ずしも「業界の中にいること」だけではないのではないか、と感じるようになりました。むしろ、自分自身の暮らしや手で生み出す空間の在り方を通して持続可能性を実践する方が、より誠実で、自分らしい貢献ができるのではないか——そんな思いが芽生え始めていたころ、勤務していた会社が財政難に陥りました。

日本におけるバイオマスの制度設計が根本的に厳しく、事業性が安定しづらいことは日々の現場で感じていたことでしたが、最終的に会社は「賃金を支払えない」という理由で私を解雇しました。理想と現実のギャップに悩み続けていたうえに会社の存続も危うくなり、キャリアを根本から見つめ直す節目としては、ある意味で決定的な出来事でした。

ちょうどその頃、私は「会社員」という働き方から一度離れ、自分の手で価値をつくる生き方に挑戦したいという思いを強くしていました。もともとDIYや木工が好きで、以前には妻のために業務用厨房小屋を一から建てたこともあります。木を扱い、空間を形にしていくプロセスは、どこか本能的に自分の性に合っていると感じていました。

そんなタイミングで始まったのが、自宅の築156年の古民家の改装でした。作業は大変でしたが、学びが多く、自分の手で家を再生させていく時間は何より充実したものでした。解体しながら構造を読み解き、必要な部分を補強し、空間が少しずつ整っていく過程が純粋に楽しく、「もしこれが仕事にできたらどれほど幸せだろう」と思うようになりました。

改装の様子をSNSに投稿していたところ、次第に反応が増え、周囲の友人知人から声をかけてもらう機会もポツポツと出始めました。そしてついには、友人から「新築を建てるので建設チームに入ってほしい」との依頼を受け、幸いにも新築工事にもメインの大工の一人として携わるようになりました。

新築は古民家とはまた違った緊張感があります。ゼロから構造を立ち上げ、これからの暮らしを包む「器」として空間を形にしていく。そのプロセスは、古民家のように「過去を読み解く作業」とは対照的に、「未来をつくり上げる作業」です。どちらも木を扱うことに変わりはありませんが、古材を生かして空間を蘇らせることと、新しい住まいを構築することでは求められる判断や工夫がまったく異なり、その違いがまた刺激的で、私は両者に深い面白さを感じています。

新築では最新の断熱性能や構造技術を踏まえつつ自然素材を活かすことを意識し、古民家では歴史や構造の文脈を読みながら手を入れていく。古民家と新築を行き来するうちに、「建物には時間軸が流れている」という感覚が自分の中でさらに強くなりました。過去を受け継ぎながら未来を形づくるという意味で、大工という仕事は、環境や地域への思いとも深く結びつくものだと感じています。


薪ストーブの設置は、「自然と共に暮らす」象徴的な行い

もう一つ、私が大切にしている仕事が薪ストーブの設置です。

薪ストーブは単に「暖房器具」としてだけではなく、
・自然と向き合う暮らし
・地域の資源を活かす循環
・火とともに過ごす時間
・素材を使い切る感覚

といった、豊かな暮らしの価値観を象徴する存在だと感じています。

井戸水、薪、太陽光、土壁──古民家の特徴は、本来「そこで採れるものや、手で扱えるもの」で暮らしが成立していたという点にあります。
薪ストーブのある暮らしは、その感覚を現代に引き継ぐような側面があります。

私自身、薪の準備や煙突掃除、火の扱いを通して、自然のサイクルに自分が参加しているような気持ちになります。こうした暮らし方は、私が抱く環境へのビジョン──「自然と切り離されずに生きる」という感覚と深くつながっています。


これから一緒に作っていきたいこと

私が建物と向き合うときに大切にしているのは、新しいものと古いものを単純に分けるのではなく、それぞれの良さを活かし合う形で重ねていくことです。古民家が積み重ねてきた時間や素材の力を尊重しながら、断熱や構造、設備といった現代の技術を丁寧に組み合わせ、無理のないかたちで快適で安心して暮らせる空間をつくる。その過程で、まだ使えるものはできる限り活かし、壊すことや新しくすること自体を目的にしない姿勢を大切にしています。

とはいえ、私はこの世界で何十年も現場を経験してきたベテラン大工ではありません。ボロ古民家だった自宅の大規模改装を行い、過去には妻のための業務用厨房小屋を一から建て、現在は新築工事の現場にも関わりながら、声をかけていただいた改修や設置の仕事を一つひとつ経験している、まさに修行中の身です。だからこそ、毎回の現場で学ぶことが多く、丁寧に考え、丁寧に手を動かすことを何よりも大切にしています。

工学や環境分野でのバックグラウンドは、そうした現場仕事を支える一つの軸になっています。感覚や経験則だけに頼るのではなく、構造や断熱、エネルギーの流れといった視点から建物全体を整理し、「なぜそうするのか」を考えながら判断する。その姿勢は、古民家でも新築でも変わりません。

古民家の改装、新築、薪ストーブのある暮らし、田舎への移住や空き家の活用について、「やってみたい気持ちはあるけれど、何から考えればいいのかわからない」「自分たちに本当にできるのか不安」と感じている方も多いと思います。私は、そうした問いに対して最初から答えを用意するというよりも、その人の価値観や暮らしのイメージを聞きながら、一緒に考えていく立場でありたいと思っています。

具体的な計画が固まっていなくても、「少し話をしてみたい」「頭の中を整理したい」といった段階からでも構いません。建物をつくることは、暮らしをつくること。そしてその第一歩は、多くの場合、誰かと話すことから始まります。その時間を共有しながら、少しずつ形を探していけたらうれしいです。

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